経営課題を解決するための「採用」にシフト|中小企業が実践できる3つのステップ

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「求人を出しても応募が来ない」「採用コストばかりかかって成果が出ない」──そんな悩みを抱える中小企業は少なくありません。ただ、その背景には、売上の伸び悩みや新規事業の停滞といった経営課題そのものが十分に整理されていないケースも多く見られます。
本来、採用は「人を増やすこと」だけを目的とした活動ではなく、こうした経営課題を解決するための一つの手法です。それにもかかわらず、経営課題と切り離したままむやみに採用活動を行うと、本来の目的である「経営課題解決」が達成されない事態となります。
本記事では、中小企業が抱えがちな経営課題を踏まえながら、「採用を経営課題の解決手段としてどう位置づけ、どのように設計・運用していくか」を具体的な実践策とステップとともに解説します!
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経営の成果につなげる採用の運用(実践策)
採用を経営課題の解決手段として機能させるには、採用した時点で終わりではなく、その成果が事業成長につながっているかまで見届ける仕組みづくりが欠かせません。ここでは、採用を経営の成果へとつなげるための実践的な運用ポイントを解説します。
採用KPIを「経営会議で語れる指標」にする
採用を経営課題の解決手段として機能させるためには、「何人採用できたか」「採用単価はいくらかかったか」といった人事部門の中だけで完結する数字から一歩進めて、経営会議の場でも語れる指標へと変えていくことが重要です。採用の成果は、売上や利益、生産性の向上、新規事業の立ち上げといった事業側の成果と切り離して考えることはできません。採用の数値だけを追いかけても、その結果として経営目標がどれだけ前に進んだかが見えなければ、「採用が経営課題の解決にどれほど貢献しているのか」を説明しきれないからです。
そのためには、まず経営目標と採用のKGI・KPIを紐づけて整理する視点が欠かせません。たとえば「新規事業を◯年◯月までに黒字化する」といった経営目標があるとき、その実現に必要な人材像と人数を明らかにし、「その人材を何名、いつまでに確保するのか」を採用目標(KGI)として設定します。そのうえで、応募数や面接数、内定数、入社数、定着率などのKPIを設計し、「経営目標 → 必要な人材 → 採用の数値」という一本の線を引いていきます。こうした整理ができていれば、「このポジションを採用したことで、新規事業の推進がどれだけ進んだのか」といったストーリーを、経営陣にも共有しやすくなります。
採用を経営視点で改善する3つのステップ
経営課題を解決する手段は、業務改善やDX、人材育成、組織体制の見直しなど、必ずしも採用だけとは限りません。まずは自社の課題に対してどの打ち手が最も効果的かを検討し、その上で「新たな人材を迎え入れることが最適な解決策である」と判断した場合に、採用を実施することになります。
ここでは、そのように経営課題の解決方法として「採用」が適切という場合を前提に、採用活動そのものをどのように見直し、設計していくべきかを、経営視点での改善ステップ3つに分けて解説します。さらに、この3つのステップを実践したうえで、採用力を高めていくために重要となる社内外のリソース活用についても紹介します。
ステップ1:経営課題から逆算した人材要件
最初のステップは、採用そのものから考え始めるのではなく、自社の経営課題を起点に「どんな役割が必要か」を逆算することです。まず、経営陣と人事、現場が一緒になって、現在抱えている経営課題を言語化しましょう。
たとえば、
・売上を伸ばしたいのか
・生産性を高めたいのか
・新規事業を立ち上げたいのか
・デジタル化や業務改善を進めたいのか
といったテーマごとに、その課題を解決するために、どのような役割やポジションが必要なのかを整理します。ここで重要なのは、「営業職が欲しい」「バックオフィスが欲しい」といった職種名レベルで止めずに、経営課題との関係がはっきりした役割定義にまで落とし込むことです。
そのうえで、役割に紐づく人材要件をスキル面とカルチャーフィット面の両方から定義します。
◾️スキル/経験
・どの程度の専門性や実務経験が必要か
・どの業務をどこまで任せたいのか
◾️カルチャーフィット/価値観
・自社のビジョン・ミッションに共感できるか
・既存メンバーとどのように協働できるか
「経営課題 × 役割 × スキル/カルチャー」が一本の線でつながるところまで落とし込めれば、採用基準がぶれにくくなり、「なんとなく良さそうだから採る」という感覚的な採用を減らすことができます。こうして経営課題から逆算して人材要件を設計することが、以降の採用プロセスの土台になります。
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ステップ2:採用活動を仕組み化し、再現性を高める
経営課題から必要な人材像が明確になったら、それを毎回ゼロから考えなくても回せる「仕組み」に落とし込むことが次のステップです。属人的な動きに頼ったままでは、担当者が変わるたびに採用の質もスピードもばらついてしまいます。
代表的な仕組み化のポイントは次のとおりです。
応募者管理ツール(ATS)の導入
応募者情報や選考状況をスプレッドシートやメールのやり取りだけで管理していると、情報の抜け漏れや対応遅れが起こりがちです。ATS(採用管理システム)を導入すれば、
・応募経路
・選考ステータス
・面接評価
などを一元管理でき、誰が見ても進捗状況が分かる状態をつくれます。結果として、候補者対応のスピードと質が安定するだけでなく、応募経路別の応募数や選考通過率などのデータを蓄積・分析しやすくなり、採用活動全体の改善ポイントも見つけやすくなります。
評価基準・選考プロセスの統一
面接官ごとに評価ポイントがバラバラだと、「なぜこの人を採ったのか/見送ったのか」が組織として振り返りづらくなります。経営課題から逆算した人材要件をもとに、
・共通の評価項目
・面接で必ず確認する質問
・合否判断の基準
を明文化し、評価シートとして共有しておきましょう。これにより、経営視点に沿った採用が誰でも再現できるようになります。
選考データの蓄積とPDCA活用
応募数・選考通過率・内定承諾率・入社後の定着状況などのデータを蓄積し、定期的に振り返ることで、
・どのチャネルが有効か
・どの選考ステップでミスマッチが起きているか
といった改善ポイントが見えてきます。採用がうまくいった、いかなかったで終わらせず、採用プロセスそのものを継続的に改善するサイクル(PDCA)を仕組みとして回すことが大切です。
このステップの目的は、採用を「属人的な頑張り」から「組織として改善され続ける仕組み」に変えることです。そうすることで、経営課題に対して必要な人材を、より安定的に確保できるようになります。
ステップ3:成果につながるオンボーディングと評価設計
最後のステップは、採用した人材が実際に経営課題の解決に貢献できる状態まで伴走することです。採用は内定承諾で終わりではなく、入社後に活躍してはじめて「経営課題の解決手段として機能した」と言えます。
そのために重要になるのが、オンボーディングと評価、フィードバックの設計です。
オンボーディングの設計
入社直後は、誰にとっても不安や戸惑いが大きい時期です。この期間に
・事業やサービスへの理解
・担当業務の目的と期待値
・一緒に働くメンバーとの関係づくり
を計画的にサポートできるかどうかで、立ち上がりのスピードが大きく変わります。具体的には、オリエンテーション、研修、OJT、メンター制度、定期的な1on1ミーティングなどを組み合わせ、「入社後◯ヶ月でここまでできるようになる」という目安を共有しておくと効果的です。
経営課題と紐づいた評価・フィードバック
採用時に定義した役割や期待される成果と、実際のパフォーマンスを定期的に照らし合わせる仕組みも欠かせません。以下を確認し必要な支援や軌道修正を行っていきます。
・何ができるようになったか
・どのようにチームや事業に貢献しているか
・経営課題の解決にどの程度近づいているか
ここまで行うことで、「採用したけれど活躍しない」「早期に辞めてしまう」といった事態を防ぎやすくなります。同時に、入社後の実績やフィードバックを次回の採用に活かすことで、「経営課題 → 人材要件 → 採用 → 活躍 → 振り返り」という一連の流れが、より精度の高いものになっていきます。
社内リソースと外部パートナーの最適活用
採用を経営視点で運用していくうえでは、すべてを社内だけで抱え込まないことも現実的な選択肢です。特に中小企業では、採用専任の担当者がいなかったり、他業務と兼務していたりするケースが多く、母集団形成から候補者とのやり取り、面接調整、媒体選定までを一手に担うのは大きな負担になります。その結果、本来は経営課題の整理や人材要件の見直しといった上流の検討に時間を割きたいのに、日々のオペレーションに追われてしまう、という状況も起こりがちです。
そこで重要になるのが、社内で担うべき領域と、外部パートナーに任せることで効果的に進められる領域を切り分ける視点です。経営課題の整理や人材要件の定義、自社のビジョン・価値観・カルチャーの言語化、そして最終的な採用判断といった部分は、企業の意思そのものに関わるため、基本的には社内が担うべきコアな領域です。
一方で、求人媒体の選定や原稿作成のサポート、スカウト送信や日程調整などの実務、応募者管理や一次スクリーニングといったボリュームの大きい業務は、採用代行(RPO)などの外部パートナーを活用することで、スピードと質を両立しやすくなります。
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貴社の採用課題、経営視点で一緒に解決しませんか?
採用を経営課題の解決につなげるには、人材要件の設計から採用プロセスの構築、入社後の活躍支援まで、一連の流れを戦略的に整える必要があります。しかし実際には、「時間がない」「ノウハウがない」「他業務との兼務で余裕がない」といった理由から、思うように前へ進められない企業も少なくありません。
株式会社ねこのてでは、経営課題の整理から採用戦略立案、実務の運用、改善サイクルの設計まで一貫して伴走支援いたします。まずは現状を伺い、最適なアプローチを一緒に検討いたします。
まとめ
採用は、単に人を増やすための活動ではなく、売上拡大や生産性向上、新規事業の推進など、さまざまな経営課題を解決するための手段のひとつです。だからこそ、「何人採るか」だけではなく、「どの経営課題を、どんな人材によって前に進めるのか」という視点が欠かせません。
本記事では、経営課題から逆算した人材要件の設定、採用プロセスの仕組み化、オンボーディングや評価設計、採用KPIの見える化、外部パートナーの活用といった実践的なポイントを紹介しました。採用を経営戦略と結びついた打ち手として設計・運用していくことが、これからの中小企業にとって、持続的な成長と競争力向上につながるはずです。
